書籍情報|最後の将軍 徳川慶喜
「最後の将軍 徳川慶喜」のあらすじ(楽天ブックス)
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徳川慶喜
感想/書評|才智と胆力
最後の将軍、徳川慶喜を題材とする本。
江戸時代は、1603年から1868年までの約260年間を指すといわれる。この江戸時代の第15代将軍が徳川慶喜である。
城山三郎の雄気堂々の主人公、渋沢栄一の恩人とされる。当然、雄気堂々にも登場する。また、司馬遼太郎の小説「竜馬がゆく」にも登場する。
意外に主人公として描かれない徳川慶喜という人物にスポットライトをあてた本として、気になっていた。
慶喜の不思議
徳川慶喜は、明君か暗君か。
彼ほど評価が分かれる徳川将軍もいないかもしれない。
徳川慶喜は、大政奉還を実現した人物である。これは(実際には戊辰戦争を避けられなかったが)戦争を避ける方向に機能した。この点で彼を高く評価する人も少なくない。
「竜馬がゆく」には、坂本竜馬の発言として、次の記載がある。
大樹公(将軍)、今日の心中さこそと察し奉る。よくも断じ給へるものかな。よくも断じ給へるものかな。予、誓ってこの公のために一命を捨てん。
他方で、彼は、戊辰戦争勃発後、突然に大阪城から抜け出す。徳川家のために戦う兵士を見捨てて戦線を離脱する。このことは、現在まで彼の評価を落とす原因となっている。
慶喜の半生
本書は、どちらかというと、彼を暗君として扱っているように思う。
松平春嶽の発言として、次の記載がある。
「つまるところ、あのひとには百の才智があって、ただ一つの胆力もない。胆力がなければ、智謀も才気もしょせんは猿芝居になるにすぎない」
原市之進の発言を含むものとして、次の記載もある。
「御前はおそれながら、ときどきお目が遠くおなりあそばしまするようで」
遠望しすぎる、というのである。市之進のいうところ、政治はもっと現実をちかぢかと視ねばならぬ。徳川家御一門という尊貴のお身の上でありながら、まるで処士や学者が物事を無責任に横議するように徳川政権の前途を歴史の俎上にのせてひえびえとおながめあそばす。それはなりませぬ
才智はある。非常に器用であり、何でも卒なくこなせた。議論で彼に敵う者も、いなかった。しかし、胆力がなかった。本書で描かれているのは、そのような姿である。
感想
将軍に選ばれるはずのない水戸の徳川家に生まれたにもかかわらず、将軍として選ばれる可能性のある一橋家の当主になり、ついには将軍になった徳川慶喜。その一生をつぶさに調査して築き上げた著者の徳川慶喜観は、ひとつの真実だろう。
ただ、徳川慶喜の一生は、彼を取り巻く環境と時代とが生んだ当然の帰結の1つかもしれない。徳川慶喜の半生を本書で読んだ結果、そのように感じた。別に彼に特別胆力がなかった訳ではない。
高貴な身分に生まれた彼が地に足を据えて、ほかの生き方をするためには、通常人を遥かに凌ぐ胆力と野望が必要だったにちがいない。
この本を読み、ひとの人生が時代と環境によって左右されるものだという想いを深くした。