書籍情報|つきあい方の科学
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「つきあい方の科学」のキーワード
ゲーム理論
しっぺ返し戦略
互恵主義
上院議員
反復囚人のジレンマ
進化生物学
殺しも殺されもしない戦略
感想/書評|つきあい方の科学
ゲーム理論に興味を持ったので、読んだ。
有名な反復囚人のジレンマの実験を行ったロバート・アクセルロッドの著書。
エゴイストと協調関係
はたして、エゴイストとは常に他人を押しのけて生きてゆくものだろうか。エゴイストが、自発的に他人と協調することはありえないのだろうか。彼らは、中央の権力に強制されなければ、協調などしないのだろうか。
自分の利益を追求する合理的な人間同士は自発的に協力するのだろうか。
本書は、この問題を囚人のジレンマを題材に検討したものである。
なお、本書の検討は生物学の領域にも及ぶ。しかし、本書評では、この点には触れない。生物学とゲーム理論の関係性に興味がある人は、ぜひ本書の第5章などを読んでみて欲しい。
囚人のジレンマ
「囚人のジレンマ」ゲームは、二人のプレイヤーAとBの報酬を(Aの報酬・Bの報酬)という形で表記した場合、次の表で表されるゲームを指す。
B協調 | B裏切り | |
A協調 | (R・R) | (S・T) |
A裏切り | (T・S) | (P・P) |
報酬R・S・T・Pは、次の2つの条件を満たす。
- T > R > P > S
- R > ( T + S )/ 2
1回だけ行われる「囚人のジレンマ」ゲームにおいては、ナッシュ均衡は(裏切り・裏切り)になる。これは、あらかじめ回数が分かっている「囚人のジレンマ」ゲームのすべてに当てはまる。
反復囚人のジレンマ
では、「囚人のジレンマ」ゲームが同一のプレイヤーの間で(あらかじめ回数が分からない形で)何度も行われる場合には(=反復囚人のジレンマ)、どのような戦略が望ましいのだろうか?
筆者は、この問題に対し、コンピュータ・プログラム同士を総当たりで競わせるという方法(=コンピュータ選手権)で検証した。
この選手権で優勝したのは、有名な「しっぺ返し」戦略であった。
『しっぺ返し』戦略は、当然のことながら最初は協調行為をとる。その後は相手が前の回にとったのと同じ行為を選ぶ。
この単純な戦略は、その他の複雑な戦略を打ち負かす。
ただ、注意すべきは、この戦略が優位性を有する条件である。
それは、次回の利得が前回に比べて値引きされない度合い(=未来係数)が十分に大きいことである。
簡単に言えば、「再び取引をする可能性が十分にある」ことが必要である。
当然のことだが、未来係数が低ければ、反復囚人のジレンマのゲームは単なる囚人のジレンマに近くなる。
メーカーがひとたび落ち目になると、彼のいちばんの得意先ですら、仕入れた商品の支払いを渋るようになる。また、品質上の欠陥、仕様書の規格に合っていないこと、納期の遅れ等々、このような苦情を訴えるようになる。商業道徳を確固としたものにしているのは、間断のない取引関係であり、得意先や仕入先と次回も取引を続けていかなければならないという信念である。
反復囚人のジレンマのゲームから得られる教訓
本書では、コンピュータ選手権で得られたデータをもとに、反復囚人のジレンマの渦中にいる人々に4つのアドバイスが提示されている。この4つを掲示して、本書の書評を終える。
- 目先の相手を羨まないこと
- 自分の方から先に裏切らないこと
- 相手の出方が協調であれ裏切りであれ、その通り相手にお返しをすること。
- 策に溺れないこと。
何故これらのアドバイスが導かれるのか、それが気になる人は本書第6章をご参照ください。
最後に
現在、経済学の中では、行動経済学が流行っているようにみえる。
「合理的な人間」がフィクションに過ぎないと主張する行動経済学は、合理的な人間を前提に数式やモデルを駆使して経済を分析しようとする従来型の経済学よりも、とっつきやすく、かなり魅力的である。
しかし、個人的には、人間は実際に合理的に行動することも少なくないから、「合理的な人間」を前提とした推論から得られる結果も十分に考察する必要があると思う。
本書は、利己的で合理的な人間を前提に考察を行い、利己的な人間同士でも協調関係が生まれる可能性を発見し、提唱した。
本書にも記載があるが、この発見はホッブスがリヴァイアサンで示した闘争状態としての自然状態の可能性に反証を提供するものであり、その点でも非常に興味深い。
また、ここ数十年の間に、グローバル化や個人主義の進行により、人が生涯の間につきあう他人の数や性質は大きく変動しているように思う。同じ人と繰り返し取引(交渉・つきあい)を行う可能性は少なからず減少しているようにみえる。本書の帰結によれば、このような事態は互恵主義の衰退を招きかねない。そのことに少し危機感を感じた。