書籍情報|雄気堂々
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渋沢栄一
感想/書評|現実主義者「渋沢栄一」
「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一の伝記的小説。
一昨年の大河ドラマの影響で渋沢栄一に興味を持ち、読んだ。
渋沢栄一は、日本の偉人の中でも、特に見習うべきどころが多い人物だと思う。
転身の多かった渋沢栄一の生涯
幕末、栄一は志士だった。
「近代日本経済の父」からは想像できないが。
栄一は、23歳の頃、横浜焼き討ちを計画する。討幕と攘夷を目的としていた。
事実、栄一たちの企てていたことは、およそ、市郎右衛門の想像を絶していた。同勢約七十人で、まず、そこから八里の高崎城を襲撃した後、鎌倉街道を急進して横浜にいたり、外人居留地の四方八方に火を放って、外国人を手あたりしだい斬殺そうというものである。
しかし、この焼き討ちは、義兄である尾高長七郎の反対もあり、実行されずに終わる。
この翌年、栄一は、御三卿の一つである一橋家に武士として召し抱えられる。
従兄弟である渋沢喜助は、裏切り者と言われたくないとして反対する。
しかし、栄一は次のように考える。
喜作が熱くなればなるほど、栄一は冷静になった。こだわりを排して、あくまで現実的であった。こだわることがあるとすれば、人生はひとつしかないという事実だけであった。
栄一は、一橋家に仕える中で、西郷隆盛を含む多くの人と会い、見識を深める。その中で、栄一は、元来備えていた「現実主義」の実業家としての才能を発揮し始める。
八月、栄一は勘定組頭に任じられた。勘定奉行に次ぐ重職で、百人以上の役人と各代官を支配する勘定所の次官の地位である。慶喜が思いきった登用をしてくれたのである。
栄一は、播州や備中にも出かけ、かねて建白していた殖産興業策を次々と実行した。
栄一の現実主義者としての側面が垣間見える作中の表現がある。
志を立てれば気がすむというのでは、簡単であるばかりか、無責任でもある。果して「志が立つかどうか」が問題であった。「どうしたら志を遂げられるか」を考えるべきである。精神だけではだめ、実が伴わねばうそだと、栄一は考える。
そして、個人的に、栄一がこの頃に実業家に不可欠な素養を身につけたと感じる次の文章を、妻の千代に送っている。
とかくの心ならぬ事のみこれあるべく候へども、気をながく、あひまちなさるべく候。その中にはよきこともこれあるべく候間、時節にしたがへ候事かんじんと存じ申し候
栄一は、27歳の時、主君慶喜の計らいにより、フランスに留学する。すぐに髷を剃る。
このフランス留学中、大政奉還がなされ、鳥羽・伏見の戦いも起こる。主君慶喜は蟄居を命じられる。
28歳で日本に戻った栄一は、主君慶喜と敵対した明治政府に呼び出される。租税正を命じられる。
栄一は悩むが、大隈重信に説得され、これを受け入れる。
この後は33歳まで官僚として働くが、その年には民間に移る。
その後は、第一国立銀行の頭取や、日本郵船株式会社取締役、日本煉瓦製造株式会社取締役会長などを務めていく。
現実主義者としての渋沢栄一
本書では、地に足をついた現実主義者としての渋沢栄一が描かれている。
幕末から明治という時代、大きな志をもった若者は多かったに違いない。
しかし、その志を遂げるための手段を地に足をつけて考えた人はどのぐらいいただろうか。
栄一は、命をかけて攘夷という当時の若者が抱く一種の理想を実現しようとした気魄の持ち主でありながら、徹底して現実主義者であり、徳川慶喜や明治維新の立役者等にも、そこを買われる。
現代にも多くの志をもった人がいると思う。その内容は多様化しているが。
しかし、志を立てるだけでは意味がない。精神論だけでは何も実現できない。
現実を見据え、地に足をつけて、志を遂げる方法を模索し、それを成せねば意味がない。
作中の記載を再掲する。
志を立てれば気がすむというのでは、簡単であるばかりか、無責任でもある。果して「志が立つかどうか」が問題であった。「どうしたら志を遂げられるか」を考えるべきである。精神だけではだめ、実が伴わねばうそだと、栄一は考える。
この言葉は、若くして亡くなってしまった瀧本哲史の「武器としての交渉思考」の章のタイトル「大切なのは「ロマン」と「ソロバン」」にも共通するものがあるかも知れない。
クローズアップ現代で引用された「現代の実業家」瀧本哲史の言葉を2つ引用して、転身の多かった「近代の実業家」渋沢栄一の伝記的小説である本書の書評を終えたい。
世の中を大きく変えたいと思うならば、きちんと『ソロバン』の計算をしながら大きな『ロマン』を持ち続ける。その両方が必要です。
2020年の世界を生きる君たちへ~投資家 瀧本哲史さんが残した“宿題”~
今はまだ小さいけれど、志と静かな熱をもった新しいつながり。新しい組織が若い人を中心に、ゲリラ的に次々と生まれています。『君はどうするの』って話です。主人公は誰か他の人なんかじゃなくて、あなた自身なんだよって話です。
ルールが変わらない世界では、ブレないことに価値もあるでしょう。でも、私たちが生きている社会はすぐにルールが変わっていきます。ブレない生き方は、下手をすると思考停止になる。最前線で戦うのであれば、『修正主義』は大きな武器になる。
2020年の世界を生きる君たちへ~投資家 瀧本哲史さんが残した“宿題”~
「X」における感想
城山三郎さんの「雄気堂々」読み始めました。
— 春咖哩 (@shiratama_jiro) July 21, 2023
バチクソ面白くて困っています。
城山さんは2年前の夏に読んだ「そうか、もう君はいないのか」という奥さまとの日々を綴ったエッセイが非常に良く、いつか小説をと思っていました。
須賀しのぶさんの「紺碧の…」に続き今夏は小説の当たり年☺️#渋沢栄一 pic.twitter.com/KW43MLbAMT
物事を思いつめていながらも、どこかでぽっと息のぬける男。事を成すにはそういう男の方がいい。
— 関原勇喜 ナカラル(株) CEO/らくらく登園®で手ぶら保育を実現します🐯 (@nakaralsekihara) April 9, 2022
『雄気堂々』 城山三郎著
渋沢栄一を表現した言葉ですが、実に奥が深いうえに、わかる。
小学校から中学校にかけて読んだ、坂の上の雲、雄気堂々、海賊と呼ばれた男、官僚たちの夏、落日燃ゆ、(もっとたくさんあったけど)
— Yashi (@carpe_diem5641) February 23, 2023
私はこういった本に出てくる、明治期に海外へ留学した人たちに対して猛烈な憧れを感じていた
形は違うけれど、自分も留学できることに驚いている
背筋が伸びる