書籍情報|ステイ・スモール 会社は「小さい」ほどうまくいく
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カンパニー・オブ・ワン
感想/書評|「より良く」>「もっと」
規模の拡大こそ善とする価値観に一石を投じる本。
カンパニー・オブ・ワンとは
大きい会社の方が素晴らしい会社である。そう考える人は、おそらく少なくない。本書は、そのような考え方を疑問視している。
そのために「カンパニー・オブ・ワン」という言葉を使用する。
カンパニー・オブ・ワンの定義はシンプルだ。規模の拡大に疑問を投げかけるビジネス、それがカンパニー・オブ・ワンである。
まず規模の拡大に疑問を投げかけ、かしこく前進できるもっといい方法があるときには規模の拡大に抗うのがカンパニー・オブ・ワンだ。
著者は、規模の拡大を目標とすることを否定する。
規模の拡大ではなく、経営者と従業員と顧客とが幸せになることを事業の目的とすべきである。著者はそのように考えているようである。
特に本書の序盤では、経営者が自由に働けるようになることを事業目標として提示する。
トムは安定した長期的なビジネスをつくった。小規模でどのような経済状況にも対応でき、弾力性があってひとつのプロジェクトやクライアントに大きく依存することがなく、生活を中心に据えて仕事ができる(つまり仕事が中心にはならない)、そんなビジネスだ。
後半では、1人ひとりの顧客を大事にする必要性を指摘する。
規模の拡大だけを目標にすると、1人ひとりの顧客を大切にすることが難しくなる。カンパニー・オブ・ワンであれば、1人ひとりの顧客を大切にできる。
カンパニー・オブ・ワンの条件
筆者は、カンパニー・オブ・ワンの条件をいくつか挙げている。
ベンチャー・キャピタルからの出資など
たとえば、他人のお金を事業資金として使用することに注意を喚起する。
新しいウェブサイトが成功するなかで、ダニエルはあることに気づいた。ほかの人のお金にはその人の意見もついてきて、ビジネスや生き方に口を挟まれるということだ。
カウフマン財団の調査によると、長期的に成功している企業の86%はベンチャー・キャピタルの資金を利用していない。なぜか。企業の関心は資金提供者の関心と必ずしも一致しないからだ。
ベンチャー・キャピタルなどのお金を使用すると、事業の拡大に向けたプレッシャーがかかる。
他者との比較
著者は、他者との比較の有害性も指摘する。
ソクラテスは、ねたみは魂の腐敗だと言う。わたしたちはほかの人の成功から悪影響を受けがちだ。自分を他の人と比べることで、自分自身と自分がほんとうに望むことを見失ってしまうのである。
大きな会社は、華々しく活躍しているように見える。それを見ていると、規模の拡大が重要であると誤解しかねない。
自分にとって何が大事か。それを直視する必要がある。
スキルの必要性
著者は、カンパニー・オブ・ワンの条件のひとつとして、スキルの必要性を挙げる。
しかし、カンパニー・オブ・ワンとして自由を獲得するには、自分の核にある一連のスキルをよく把握しておく必要がある。能力と自由は切り離すことができない。
この文脈で著者は、「情熱」の危険性を挙げる。
どれだけ頑張っても無理なものは無理だ。「情熱に従え」というのは、無責任なビジネス・アドバイスである。
著者によれば、大事なのは「情熱」ではない。大事なのは、「やりがいのある仕事」だ。
「やりがいのある仕事」は、①明確に定義された職務、②自分がうまくできるタスク、③成果のフィードバック、④仕事の自律性という4つの重要要素から構成されるらしい。
情熱に関する次の記載は、核心をつくものだろう。
仕事における情熱は、まず価値ある一連のスキルを身につけ、仕事に精通することから生まれる。これは嬉しい知らせだ。隠されたほんものの情熱を探し求める必要はなくなり、ただ仕事をしていればいいのだから。
最後に
「大きな夢を抱き、その夢に情熱をもって向かうべきだ。」みたいな本は多い。
しかし、それは少し無責任かもしれない。
そのような本を理想主義的書籍とするのであれば、本書は現実主義的書籍である。
事業を作り、それを継続する方法。この方法を現実主義的視点から説明する本として、いつか事業を作りたいと考えている人や、既に事業を構築し、その継続に向けて奮闘している人にオススメできる本。
最後に、本書が現実主義的書籍であることが伺えるひとつの記載を挙げて書評を終える。
意思決定は、見こみの利益ではなく、実際の利益に焦点を合わせて行うべきだ。(省略)カンパニー・オブ・ワンが規模を拡大する必要があるときも、それができるのは、希望的な利益の見こみではなく、実際の利益にもとづいているときだけだ。