書籍情報|サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福
「サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福」のあらすじ(楽天ブックス)
「サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福」のキーワード
認知革命
農業革命
科学革命
幸福論
感想/書評|虚構を語る力こそが人間を変えた⁉︎
「シリコンバレー最重要思想家 ナヴァル・ラヴィカント」で「私がここ10年間に読んだ中で最高の一冊だ。何十年も費やして書かれた労作。数々の珠玉のアイデアがどのページにもぎっしり詰まっている。」として薦められていたので、読むことにした。
前評判どおりの大作でした。
ちなみに、文庫版は見つからなかった。
虚構を語る力
この本では、「虚構を語る力」について、触れている。
著者によれば、認知革命によって生まれた虚構を語る力こそが、ホモ・サピエンスをして、世界の支配者のような立場に君臨させている。
虚構を語る力が生物学と歴史学を切り分けた。
およそ生物の進化は、遺伝子の変異によって可能となる。
しかし、サピエンスは、約7万年前に虚構を語る力を手に入れることにより、この進化の過程の「追い越し車線」を走ることができるようになった。
虚構を語る力は、150人を超える大人数での団結を可能にした。
何千という単位で集団的に行動できるようになったことは、サピエンスと他の動物および他の人類の間に大きな差をもたらした。
それはサピエンスに対し、遺伝子の変異に依存せずに振る舞いを変える力を与えた。
このような追い越し車線の移動こそが「歴史学」である。
一対一、いや10対10でも、私たちはきまりが悪いほどチンパンジーに似ている。重大な違いが見えてくるのは、150という個体数を超えたときで、1000〜2000という個体数に達すると、その差には肝を潰す。もし何千頭ものチンパンジーを天安門広場やウォール街、ヴァチカン宮殿、国連本部に集めようとしたら、大混乱になる。それとは対照的に、サピエンスはそうした場所に何千という単位でしばしば集まる。(省略)
私たちとチンパンジーとの真の違いは、多数の個体や家族、集団を結びつける神話という接着剤だ。この接着剤こそが、私たちを万物の支配者に仕立てたのだ。
本書(上)56ページ
生理的には、過去三万年間に私たちの道具製作能力に目立った進歩はなかった。アルベルト・アインシュタインは古代の狩猟採集者と比べて、手先の器用さでははなはだ劣っていた。それにもかかわらず、大勢の見知らぬ人どうしが協力するという私たちの能力は、劇的な進歩を遂げた。古代の槍の燧石の穂先は、一人の人間が数分で製作できた。その人は、数人のごく親しい友人の助言と助けに頼っていた。現代の核弾頭を製造するには、地中深くのウラン鉱石を掘り出す人から、亜原子粒子の相互作用を記述する長い数式を書く理論物理学者まで、世界中の何百万もの赤の他人どうしが協力する必要がある。
本書(上)56ページ
脱出不能の監獄
サピエンスは、虚構を語る力によってサピエンスたりえている。
では、サピエンスに属する我々は、虚構から逃れることはできるのだろうか?
著者によれば、虚構から逃れることはできない。
虚構は、人生というタペストリーに織り込まれている。
想像上の秩序は物質的世界に埋め込まれている
まず、虚構は頭の中に存在しているだけではなく、物質的世界にも埋め込まれている。
今日の西洋人の大半は、個人主義を信条としている。彼らは、すべての人間は個人であり、その価値は他の人がその人をどう思うかによって左右されないと信じている。私たちの誰もが、自分の中に、人生に価値と意義を与えるまばゆい一筋の光を持っている。(省略)
現代の建築では、この神話が想像の中から跳び出してきて、具体的な形を取る。現代の理想的な住宅は、他人の目から遮られ、最大限の自主性を提供できるプライベートな空間を一人ひとりの子どもが持てるように、多くの小さな部屋に分かれている。
本書(上)147ページ
想像上の秩序は私たちの欲望を形作る。
また、虚構は、私たちの実体的な欲望を形作る。
たとえば、外国で休暇を過ごしたいという、ありふれた欲望について考えてみよう。この欲望には自然なところも明白なところもまったくない。(省略)
古代エジプトのエリート層は巨額の費用をかけてピラミッドを建設し、自分の亡骸をミイラにしたが、バビロンに買い物に行くことやフェニキアに休暇で出かけてスキーを楽しむことなど、けっして思いつかなかった。今日の人々が外国での休暇にたっぷりお金を注ぎ込むのは、ロマン主義的消費主義の神話を心の底から信奉しているからだ。
本書(上)149ページ
想像上の秩序は共同主観的である。
さらに、想像上の秩序は主観的なものではなく、共同主観的なものである。
同様に、ドルや人権、アメリカ合衆国も、何十億という人が共有する想像の中に存在しており、誰であれ一人の人間がその存在を脅かすことはありえない。
本書(上)152ページ
資本主義という宗教
著者によれば、資本主義も「虚構」である。
資本主義に関する著者の見解も、非常に興味深い。
著者によれば、グローバルなパイが拡大するに違いないという信念こそが、資本主義を生んだ。そして、グローバルなパイが拡大するに違いないという信念は、科学革命がもたらした。この信念により、信用供与が活発になり、それが経済成長を生む。
科学革命以前は、将来は現在よりも悪くなるか、せいぜい現在と同程度だろうと考えられていた。
多くの文化で、大金を稼ぐことが罪悪と見なされたのも、そのためだ。イエスの言うように、「金持ちが神の国に入るよりも、らくだが針の穴を通る方がまだ易しい」(「マタイによる福音書」第19章24節)(日本聖書協会『聖書』新共同訳より)。
パイの大きさが変わらない以上、一人がたっぷり取れば、必ず誰かの取り分が減る。だから裕福な人々は、余った富を慈善事業に寄付することで、己の悪行に対する贖罪の意を示さなければならなかった。
本書(下)132ページ
なお、著者は資本主義の危険性にも触れている。ここも興味深い記載に溢れているので、ぜひ読んでみてください。
最後に
この本は、歴史の捉え方に関するアイデアに溢れている。
特にサピエンスの特徴を「火」とか「道具」ではなく「虚構を語る力」に求めた点には、あたらしい視座を与えられたような気がした。
虚構を語る力によって歴史が形作られているというアイデアにも驚かされた。
今日までに2周読んだが、まだ十分に味わえていない気がするので、また来年にでも読みたい。
なお、本書評では触れなかったが、本書下巻の第19章のタイトルは「文明は人間を幸福にしたのか」となっています。この章の記載もアイデアに溢れているので、ぜひ読んでください!