書籍情報|歴史とは何か
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歴史とは何か
歴史家
二元論
感想/書評|歴史学とは何か。
どこかの大学が出していた教員推薦図書一覧の中にあったので、タイトルに惹かれて読んだ。
事実と価値観
本書は、「事実」と「価値観」について、かなり踏み込んだ検討をしている。
個人的には、本書が示している次の2つの考え方に触れられたことだけでも、本書を読んで良かったと思った。
- 事実は主観と独立して存在している訳ではない。純粋に客観的なものではなく、主観によって発見され、意味を持たされるものである。
- 事実から価値観が生まれないという説明は、少なくとも完璧ではない。価値観には事実から生まれるという側面がある。
一般的に、「事実」は、客観的なものを指すと理解されている。主観とは無関係に存在しており、主観によって事実が変わることはない。
これまで、このような事実/価値の二分法には概ね同意してきた。
しかし、「事実」は、混沌とした現実から「事実」として切り出されるにあたり、主観的なものに影響を受けるだろう。現実には切れ目がない。無限の真実から一定の言葉を用いて「事実」を切り出すとき、主観の影響を受けざるを得ない。
本書には、歴史的事実について、次の記載がある。
事実が語るのは、歴史家が声をかけたときのみです。どんな事実に発言権を与えるのか、どんな順序で、どんな文脈で発言させるのかを決めるのは歴史家です。
この記載を読み、このように主観が事実に与える影響に改めて気づかされた。
また、これまでの歴史の中で一度は正しいとされていた価値観がその後に否定されるようなことが何度も起こっていることからは、「事実」が「価値」に影響を与えるという側面も否定できないのだろう。
価値観は事実からは導き出せないという説は、半分正しく、半分まちがいです。任意の一時代、任意の一国における優勢な価値観を検討すれば、すぐに分かることですが、その価値観の大部分はまわりの事実によって形づくられています。(省略)価値観は事実からは導き出せないという命題は、控えめに申しましても、一面的で誤解をまねきます。
このことについても、本書の上記の記載には、(著者が歴史学者であることもあって)力がある。
なお、「価値」ひいては「倫理」について、本書の著者を含めて歴史を研究されている方は、それを客観的に評価する目を備えているように感じる。自分の生きている時代や社会に影響されて知らず知らずのうちに構築してしまう本来は主観的な「倫理観」や「価値観」を、その時代や社会から離れて客観的に評価する目を備えているように思う。
歴史学とは何か
本書は、歴史学という学問領域が何を目指すものなのかについて、著者の見解を記載している。
科学者、社会科学者、歴史家はみな、同じ学問の別の分野に従事しているのです。つまり、人間とその環境、人間が環境におよぼす影響、環境が人間におよぼす影響といったことを別の分野で研究しています。研究の目的は同じで、人間の環境にたいする理解を増し、環境にたいする制御力を増すことです。
著者は、歴史学の目的を「人間の環境にたいする理解を増し、環境にたいする制御力を増すこと」にあると主張している。
この見解には、歴史学をして、過去のみに向いた学問ではなく、未来にも目を向けている建設的な学問にする力がある。
正直、本書を読むまで、歴史学に良い印象はなかった。それは歴史学者が過去の事実を蒐集することに終始していると感じていたからかもしれない。
本書は、(あくまでも著者の見解であるが)歴史学が未来のための学問であることを教えてくれた。すべての歴史学者が本書の著者と同じ歴史哲学的見解を有しているのであれば、歴史学も非常に面白い学問分野なのだろう。
まとめ
本書は1960年代に書かれている。しかし、その内容は色褪せていない。「歴史学とは何か」を知りたい人にはもちろん、そうでなくても、事実と価値は二分できると考えている人、価値(規範)は事実から導けるものではないと固く信じている人にも一読をオススメします。