書籍情報|夜と霧[新版]
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カポー
強制収容所
テヘランの死神
感想/書評|人の真価はいつ発揮されるか?
めちゃめちゃ有名な本。
ちゃんと最初から最後まで読んだことはなかったので、読んでみました。
オーストリアで精神科医として働いていた著者は、第二次世界大戦中、ナチスがオーストリアを併合したとき、強制収容所に収容されました。
そんな著者が強制収容所での生活が自己や友人に与えた影響を考察しています。
「衣食足りて礼節を知る」と言いますが、数秒後の命の安全も保障されていない状況で、人は他人を思いやることができるのか?
人はどう生きるべきか?
人の真価は、いつ発揮されるのか?
これらのテーマに対し、強制収容所での経験を踏まえて回答を提示しています。
短い本なので、ぜひ一読をおすすめします。
なお、パレスチナ問題が先鋭化している2024年2月現在、訳者あとがきの次の記載には心を動かされます。
少し長くなりますが、訳者あとがきを引用して、この書評を終わりにします。
旧版と新版のもっとも大きな違いは、旧版にまつわる驚くべき事実から語り起こさなければならない。旧版には、「ユダヤ」という言葉が一度も使われていないのだ。「ユダヤ人」も「ユダヤ教」も、ただの一度も出てこない。(省略)
ところが新版では、新たに付け加えられたエピソードのひとつに、「ユダヤ人」という表現が二度出てくる。ついにアメリカ人と赤十字がやってきて収容所を管理下においたとき、ユダヤ人グループが収容所長の処遇をめぐってアメリカ軍司令官と交渉した、という逸話である。彼らユダヤ人は、この温情的な所長をかばったのだ。
ここに敢えて「ユダヤ人被収容者たち」と名指ししたのはなぜか。(省略)
そう、1948年の「イスラエル建国」と同時に勃発した第一次中東戦争から三十年足らずの間に、この地は四度も戦火に見舞われたのだ。(省略)
だからこの時期、『夜と霧』の作者は、立場を異にする他者同士が許しあい、尊厳を認めあうことの重要性を訴えるために、この逸話を新たに挿入し、憎悪や復讐に走らず、他者を公正にもてなした「ユダヤ人被収容者たち」を登場させたかったのだ、と私は見る。